正直驚いた。やはり政治家にとって権力は、一般庶民の理解を遥かに超える魔力を持つらしい。一度権力の味を知った人間は、権力が持つ魔力の奴隷になるのだろう。小池百合子の行動を見ると、そう考えてしまう。
彼女は、カイロ大学を首席で卒業したとの肩書で8年前の都知事選に当選した。完全な学歴詐称だった。しかし、4年前も同様な手口を使って再選された。しかもこの時は366万票を獲得しての圧倒的大勝利だった。
2016年と2020年の都知事選にいったい何が起きたのだろうか? 東京都民の有権者は、学歴詐称をしても何の問題もないと判断したのだろうか?
仮に都民の有権者が、学歴詐称を知っていて問題視しなかったとすれば、選挙民のモラル崩壊であり、民主主義の自己否定になる。立候補者の嘘を認めてしまうと健全な民主主義が成り立つはずがない。だからよく考えると、都民の多くの有権者は、小池百合子の学歴詐称に対して確信を持てなかったか、あるいは報道を知らなかったか、そのどちらかであった可能性が高い。その点について検討したい。
小池百合子の学歴詐称を決定的にしたのは、2020年の都知事選の約一月前に出版された石井妙子著『女帝小池百合子』である。この本を読んだ人なら誰でも、著者の徹底した取材に関心するに違いない。中でも小池百合子が19歳の時から約2年間、カイロで同居していた北原百代さん(本の中では権力者・小池の報復を恐れて偽名を使っているが、文庫本で本名を名乗る)の談話は圧巻で、学歴詐称を生々しく語っている。この本はベストセラーになるが、しかし、都民の有権者のうちの何名の人が読んだだろうか?
恐らく、投票数にはほとんど影響しない微々たる数に過ぎないだろう。マスコミも大きく取り上げないので、投票には全く影響しなかったと言えるだろう。しかし、後でわかることだが、都知事選直前にこの本が出版された時、小池都知事は内心非常に動揺したらしい。
それで側近と相談した結果、「声明:カイロ大学」と題する文書が駐日エジプト大使館のフェイスブックに掲載されることになった。小池百合子がカイロ大学を卒業したことを証明する内容のカイロ大学の文書である。この文書は小池百合子の学歴詐称問題を鎮静化するのに大いなる効果を発揮した。
しかし、この文書は小池都知事が作成した文書であることが元側近の告発で明らかになった。元側近とは都民ファーストの会事務総長を務めた小島敏郎さんである。小島氏の告発文は文藝春秋5月号に掲載された。ぼくはこの告発文を読んだが、非常に信憑性が高いと感じた。
またこの月刊誌には北原百代さんの小池都知事への手紙も載っている。『女帝小池百合子』の徹底した取材、同居人の北原百代さんの生々しい証言、元側近の小島敏朗さんによるカイロ大学声明文書の偽造の暴露、これらを併せ考えると、小池百合子がカイロ大学を主席で卒業したというのは完全に嘘であると断言できる。小池百合子の学歴詐称問題は真っ黒であると結論づけることができる。
ここまで来れば来月に告示される予定の都知事選には立候補できないはずだ。しかし性懲りも無く今回も立候補するというのだから驚きである。彼女の行動心理をどう理解すれば良いのだろうか?
恐らくこれまでの嘘の成功体験が彼女を大きく支えているのだろう。原点は22歳の頃に遡る。その頃カイロで北原百代さんと同居していた小池百合子の父親からエジプト大統領のご夫人が東京に行く予定だから、エスコートするようにと言われて東京へ行き、そこでマスコミに対してカイロ大学を首席で卒業した、とまんまと嘘をついて記者たちを信用させ、新聞に顔写真付きの記事まで掲載させてもらった。
喜び勇んでカイロに戻ってきた小池百合子は、同居人の北原さんにその記事を自慢げに見せた。当然のこと、北原さんはびっくりする。卒業どころか進級試験に落ちたままで、ろくに勉強もしない小池百合子を身近で観察してきたからだ。北原さんをカイロに残して小池は勇躍帰国した。要領よく嘘をついてもマスコミは深く追及しない。
カイロ大学を主席で卒業したという嘘を梃子にした小池百合子の上昇志向人生が始まる。あれから約50年、小池百合子にとってカイロ大学首席卒業という肩書は何にも増して重要なファクターであり、権力の階段を駆け上るのにこれほど都合の良い嘘はなかった。
しかし、やはり人間の運命は奇なるもの、どこでどう変転するか、誰も予想することはできない。自分はカイロ大学を首席で卒業したという自己欺瞞に、小池都知事の心は今、大きく揺れ動いている。国政に復帰して総理大臣の椅子を目指す夢を絶たれた今、71歳の小池都知事は残りの人生を大きく左右するであろう大きな岐路に立たされている。
このまま嘘を貫き通すか、それとも権力の座から降りるかの二者択一。果たせるかな小池都知事は嘘を貫き通す道を選んだ。何故だ?
彼女の心の中を見ることはできないのでよく分からないが、恐らく権力の魔力がそうさせるのだろう。権力を握って要領よく立ち回ることができれば、一般庶民には味わえない優越感に浸ることができる。この快感は権力でしか手にすることはできない。
ぼくは小池都知事の心境をそのように想像する。これからも優越感と快感を得るために、要領よく嘘をカムフラージュしつつマスコミの追及を上手くかわす。これまで成功したように、同じように振る舞えばいいだけの話だ。
今回の都知事選がどうなるか予想は難しいが、仮に小池都知事が3選されるとなると、有権者の民度とマスコミの堕落が大きく問われることになるだろう。それにしても、アメリカの属国・日本の政治にも選挙にも興味はないよ、という絶望の声が遠くの方から、今にも聞こえてきそうではあるが。